リテールメディアとは?いま注目を集める新たな広告形態を解説
2023.06.282022年頃から頻繁に耳にするようになったリテールメディア。「小売店が提供するメディアの総称」を意味する言葉ですが、これだけでは「どうにも理解しづらい…」といった方も多いのではないでしょうか。
そこで今回はリテールメディアの概要やなぜ注目を集めるのかについて解説します。ECの新たな収益源としても期待されるリテールメディアについて、この機会にぜひ理解を深めてください。
目次
リテールメディアとは?
リテールメディアとは、小売店が運営するECサイトやアプリ、実店舗に掲示しているデジタルサイネージなど、「小売店が自社で提供するメディア」の総称です。
一般的に広告出稿の場はプラットフォームや大手メディアが主流ですが、リテールメディアでは小売店が自社のメディア(掲載スペース)を広告枠として提供する点が特徴といえます。ちなみにリテールとは日本語で「小売」を意味し、「小売が提供するメディア=リテールメディア」という呼称が定着しました。
1stPartyデータを活用して広告を出稿する
リテールメディアのポイントとなるのが「1stPartyデータ」を活用していること。広告の出稿に際して、小売店が蓄積したお客様の購買データや、小売店アプリの利用ログから得た行動データなど、店舗しか知りえない「生」のデータを元に広告を配信します。
ECでは近年D2Cモデルで自社でデータを蓄積する動きが増えていますが、それはまだまだ一部にすぎません。依然としてデータ収集はプラットフォーム側から得られた「3rdPartyデータ」に依存しています。広告配信もこのデータが軸でしたが、リテールメディアにより「1stPartyデータ」の活用が可能となったことで、精緻なターゲティングが可能となり、広告出稿の費用対効果が高まりました。
なぜリテールメディアが注目されるのか?
ここまでリテールメディアの概要を解説してきましたが、なぜこれほどリテールメディアが注目されるのかもう少し深掘りしていきましょう。
3rdPartyデータへの規制が強化されている
まず3rdPartyデータへの規制が強化されている点が挙げられます。欧州のGDPR(EU一般データ保護規則)をかわきりに、個人データ収集への視線は厳しさを増しています。GoogleやAppleも3rd Party Cookieの廃止を進め、事業者のデータ収集のハードルが高まっています。
その点リテールメディアはプラットフォームに依存しない1st Party Dataです。データの精度もこれまでより高く、企業にとっては価値あるデータとなりました。
小売店・配信者双方にメリットがある
次にリテールメディアは小売店と広告配信者の双方にメリットがある点が挙げられます。
小売店は自社のメディアに広告を掲載してもらうことで収益が生まれます。これまで自社が保有していたデータは自分達だけで利用するに留まっていましたが、収益化が可能となれば新たな収入源が生まれます。また新たなユーザーの獲得や販路の拡大といった点もメリットです。
広告配信者からすれば、小売店の1stPartyデータにより、精度の高い広告配信が可能に。効果測定を含め小売店の詳細な販促データを入手できるため、新たな施策の検討や改善に役立てることが可能です。また、実店舗で広告を配信すれば、ユーザーに親近感や安心感を抱いてもらえ、新規顧客の獲得やブランド価値の向上が期待できます。
消費者にとってもメリットが大きい
リテールメディアは消費者にとってメリットが大きい点も特筆すべきポイントです。
1stPartyデータを活用した広告配信は、従来の広告に比べ消費者の興味や関心が高いといえます。3rdPartyデータでは洗い出せなかった詳細な行動データを活用できるため、消費者にとって有益な情報が入手できます。 また、前述した個人情報保護の観点からも、提供した情報がどのように使用されているのが分かりやすいリテールメディアは安心感を抱きやすいといえます。
リテールメディアの事例と今後の予想
最後にリテールメディアの事例と、今後の市場予想について見ていきましょう。
米Amazonやウォルマートなどがリテールメディアで大きな成功を収める
すでにアメリカではリテールメディアを活用した成功事例が多数登場しています。ECの王者Amazonは、自社での広告事業で約4兆5,940億円(2021年売上高)を生み出しています。
またリテールメディアの存在が注目されるきっかけともなったのが、アメリカにある世界最大のスーパーマーケット、ウォルマートです。ウォルマートは実店舗を数多く運営していますが、広告事業の年間売上高は約3,096億円(2022年2月)。これは実店舗を運営する小売店が自社のデータを使って3,000億の収益を得たことを意味し、市場に大きなインパクトを与えました。
国内でも電通やセブンイレブン・ジャパンなどがリテールメディアに注力し始めるなど、今後国内市場でも急成長が期待されます。
2026年には市場規模が6倍になると予想
上記のグラフは株式会社CARTA HOLDINGSが発表したプレスリリースを元に作成した、リテールメディアの市場規模の推移です。同リリースでは2022年の市場規模は135億円。これが2026年には約6倍の805億円に拡大すると予想しています。
これまでEC事業においてデータは自社のマーケティングや施策に活用するのが主たる目的でした。しかしリテールメディアの台頭により「データで収益化できる」という認識が広がったことで、事業者にとって新たなビジネスの土壌が生まれたといえます。今後鍵を握るのはデータを収集するアプリやデジタルサイネージの普及で、この分野に積極的投資する動きが加速するでしょう。
一方で3rdPartyデータへの依存でが高い事業者は、1stPartyデータを蓄積する体制の構築が求められます。日本でも2023年6月に施行された「改正電気通信事業法」をはじめ、個人情報の収集への規制は厳しさを増しています。
今後いかにして1stPartyデータを獲得するかは、EC事業者にとって事業を拡大させる大きな分水嶺となりそうです。
まとめ
今回はリテールメディアの用語の解説と、なぜ注目を集めるのかその背景についてご紹介しました。
リテールメディアとは小売店が運営するECサイトやアプリ、実店舗に掲示しているデジタルサイネージなど、「小売店が自社で提供するメディア」の総称です。小売店はこうしたメディアの枠を広告として販売し、収益を得ることが可能に。またメディアから入手できるデータは自社だけが保有できる1stPartyデータで、従来までの3rdPartyデータに比べ精度の高い広告配信が可能となります。
個人情報入手への規制が厳しさを増すなかで、こうした「生」のデータを元にして広告出稿できる点は、広告を出稿する事業者にとってメリットが大きいといえます。同時に、広告枠を提供する事業者も新たな収益源を確保できるなど、両者にとってWin-Winの関係を築けるため、今後新たなメディアとして台頭が期待されそうです。
※記事中の売上データは『最新マーケティングの教科書2023(日経クロストレンド)』のデータを参考にしています。