3,000億円買収の衝撃。PayPalによるPaidy買収から読み解くBNPL(後払い決済)の可能性

EcWork編集部

2021年9月8日、アメリカの大手決済サービスPayPalが日本の後払い決済サービスPaidyを買収すると発表しました。買収額は3,000億円(約27億ドル)。

日本のスタートアップ企業が、外資から破格の金額で買収された点もさることながら、BNPL(Buy Now Pay Later:バイ・ナウ・ペイ・レーター)と呼ばれる後払い決済への世界的な注目度の高さがあらためて窺えるニュースとなりました。

今回は、Paidy買収の背景や、BNPL市場の今後の可能性について解説します。

米大手決済サービスPayPalが日本発ユニコーンのPaidyを買収

アメリカの大手決済サービスとして知られるPayPalは、2021年9月8日、日本の後払い決済(BNPL)サービスPaidyを買収すると発表しました。買収額は3,000億円(約27億ドル)で、2021年第4四半期(10~12月期)に買収は完了予定。 買収後もPaidyのブランドは従来通り提供されます。

>Paidyによるプレスリリース

Paidyは、2014年に創業した後払い決済サービスで、現在のアカウント数は600万以上。2021年の流通総額は約2,200億円(約20億ドル)弱と市場での存在感を高めており、日本では数少ないユニコーン企業(未上場で評価額10億ドル以上)の1つに数えられます。

買収の背景には何があったのか?

今回の買収について、PayPalの日本事業統括責任者ピーター・ケネバンは次のようにコメントしています。

Paidyは日本市場に合わせたあと払いサービスをいち早く開発し、消費者と加盟店双方に規模の大きな決済プラットフォームを提供することで業界をリードし、急速に成長してきました。Paidyのブランド力、機能、優秀な人材とペイパルがオンライン決済の分野でこれまで培ってきた専門知識、リソース、グローバル展開を組み合わせることで、私どもにとって戦略的に重要な市場である日本でのビジネス展開をさらに加速させるために強力な基盤を構築することができます

https://newsroom.jp.paypal-corp.com/2021-09-07-PayPal-to-Acquire-Paidy

では、このコメントを踏まえつつ、今回の買収の背景にはどのような理由があったのか見ていきましょう。

背景1.PayPalの日本での越境EC事業や機能の拡充

1つ目の理由は、PayPalの日本での越境EC事業や機能の拡充です。

PayPalは言わずと知れた大手決済サービスです。世界200の国と地域で4億件のアカウントを持ち、オンライン決済の分野では欠かせない存在といえます。一方で、日本国内でのニーズはそれほど高くなく、アカウント稼働数は430万件程度に留まっていました。

Paidyは国内で600万件を超えるアカウントと70万件を超える加盟店を持ち、日本のユーザーにしっかりと根付いています。日本でのEC事業を拡大したいPayPalにとっては実に魅力的で、今回の買収を決断した最大の理由となりました。

また日本では海外に比べオンライン決済の普及率が低く、現金決済の割合は以前7割近くにに上ります。PayPalはこうした現状から、日本のオンライン決済市場に開拓の余地があると見ており、今回の買収をその足掛かりとしたい狙いがありました。

加えて、Paidyは台湾へも進出しています。EC市場が大きな盛り上がりを見せるアジア圏への拡大も、PayPalの思惑に含まれているといえるでしょう。

背景2.世界規模でのBNPLの人気拡大

2つ目はの理由は、世界規模でBNPL(Buy Now Pay Later)の人気が拡大している点です。

現在アメリカを中心に、後払い決済を意味するBNPLが広がりを見せています。中でもクレジットカードを持たない若年層を中心としたユーザーからは高い支持を集めています。また、サービス側もAI技術の発展により、与信判断の精度が格段に高まり、貸し倒れのリスクが軽減した点もBNPL市場が拡大する理由の1つでしょう。

BNPLサービスではこのところ大手企業の買収や提携の動きが活発化しており、2021年8月27日にはアメリカ大手のBNPLサービス・Affirm(アファーム)と、Amazonが提携を発表。また、アメリカのモバイル決済大手・Square(スクエア)が、オーストラリアのBNPLスタートアップAfterpayを、約3兆1800億円(290億ドル)で買収したことも大きな話題となりました。

PayPalの買収もこうしたBNPL市場への期待感の高さがあらわれたもので、3,000億円(約27億ドル)という買収額の大きさにその本気度が窺えます。

背景3.新たなプラットフォームを作る手間を省く

3つ目が、新たなプラットフォームを立ち上げる手間が省けるということ。

企業にとって新たなプラットフォームを立ち上げるフェーズは労力が大きく、軌道にのるまでは手間がかかります。こうした難易度の高い初動の段階をスキップし運営フェーズからスタートできるという点は、買収する企業側にとっては大きなメリットです。

とくにPaypalはすでに世界的な知名度を確立しているにも関わらず、日本では苦戦を強いられてきました。こうした状況で新たに日本向けのプラットフォームを立ち上げるよりも、すでに成功を収めているサービスを傘下に加える手法の方が合理的で、今回はPaidyにその白羽の矢が立ったという訳です。

BNPLの国内市場での可能性

さて、ここまでPayPalによるPaidyの買収に関して詳しく解説してきましたが、あらためて今回の買収劇ではBNPLへの世界的な注目度の高さが窺えました。

国内で続々とBNPLサービスが登場

日本国内では近年、後払い決済を提供するBNPLサービスが続々と登場しています。

今回の主役となった「Paidy」をはじめ、国内BNPLの先駆者である「NP後払い」、決済代行大手のGMOペイメントでも「GMO後払い」を展開しています。また、メルカリが提供する「メルペイ」でも後払い決済を導入するなど、各企業が自社で後払いサービスを展開する動きも増えており、今後も競争が過熱すると予想されます。

2021年4月に発表された『日本総研による拡大する Buy Now, Pay Later(BNPL)
市場の動向と今後の展望
』では、若年層を中心にクレジットカード離れが加速している一方で、コロナ禍の影響やデジタルツールの普及によりEC市場は拡大傾向にあると分析しています。こうした状況で手軽に決済を完了でき、クレジットカードなしで商品を購入できるBNPLが、ユーザーのニーズとマッチし市場の拡大に繋がったと分析しています。

後払い決済サービス 市場規模

また、矢野総研が行ったEC決済サービス市場に関する調査では、BNPLの国内市場規模は2021年に1兆円を超えると予想。また、2024年には1.8兆円を超えると予想しています。


日本人の真面目さはBNPLと相性が良い

さて、日本総研の調査では今後のBNPLの課題として、支払い能力を超えた消費への対応や規制強化の議論が必要であると述べています。

一方で、Paidyの社長・杉江陸氏はインタビューにおいて、

「延滞金はおそらく売り上げの1%もなく、そこに依存するビジネスモデルではない」
「貸し倒れ率は「現時点でほぼゼロにできる」」

と語っています。

これは、PaidyのAI技術を用いた高い与信判断の精度に加え、顧客データの蓄積が進むことでより正確なコントロールが可能になるという、フィンテックの強みを受けての発言です。

また、日本人の真面目さはBNPLのサービスと相性が良いといえるでしょう。日本人の規律や規範を重んじる姿勢は抜き出たものがあり、こうした国民性はBNPLサービスを提供する上ではアドバンテージといえます。世界的に見ても日本のBNPLは先行している面が多く、今後同サービスにおいて市場をリードする可能性を秘めています。

まとめ

今回のPayPalによるPaidy買収は、世界的なBNPLの拡大の流れと、日本の決済サービスに大きな可能性があることを裏付ける出来事でした。

2021年7月にはGoogleが日本のモバイル決済サービス「pring(プリン)」を買収したニュースが業界を駆け巡りましたが、今回は3,000億円(約27億ドル)という買収額の大きさやBNPL市場の賑わいも相なって、業界内外を問わす大きなインパクトを与えました。

今後もIT巨人による日本のスタートアップ買収の動きは活発化するとの見方もあり、動向に注目が集まります。