2022年のEC市場規模は440兆円超え。最新データからトレンドを解説
2023.09.06経済産業省は2023年8月31日に、「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」を発表しました。
この調査はEC市場の動向を知るために毎年実施されており、最新の市場動向について詳細なデータが公開されています。EC事業者にとっては業界全体の動きを把握するうえで貴重な参考材料となる資料。マクロ的な視点を押さえておくのは、事業を運営するうえで重要な意味を持ちます。
そこで今回は、2022年のEC市場規模と動向について解説します。また最新調査から伺えるトレンドについても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
※本記事で使用するデータ・画像は「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」から引用・出典しています。
目次
2022年のEC全体の市場規模は約440兆円
2022年の日本国内のEC市場規模は、全体で440兆円超。前年の約390兆円超から増加傾向にあり、EC市場全体は成長傾向にあります。市場が成熟し成長のスピードこそ鈍化傾向にありますが、依然としてEC市場は活発な動きを見せています。
また、EC化率(全ての商取引市場規模に対する、電子商取引市場規模の割合)は、BtoC-ECで9.13%(前年比0.35ポイント増)、BtoB-ECで37.5%(前年比1.9ポイント増)といずれも増加傾向にあり、ECでの市場取引が増えているのが伺えます。
では市場規模の内訳を詳しく見ていきましょう。
1.BtoC‐ECの市場規模は22.7兆円
消費者向けの販売にあたるBtoC-ECの市場規模は22.7兆円。前年は20.7兆円で、前年比9.91%増加となりました。BtoC-ECは「物販系」「サービス系」「デジタル系」の3つの分野で調査が行われています。
【物販系分野】13兆9,997億円でもっとも市場規模が大きい
まず食品や生活雑貨、衣料品などが含まれる「物販系」は13兆9,997 億円。前年比では5.37%の増加で、3つの分野でもっとも市場規模が大きくなっています。
各分類ごとの市場規模で注目したいのが「食品、飲料、酒類」。前年比で9.15%増はもっとも大きな伸びで、市場規模も2兆7,505億円とトップを記録しています。これはネットスーパーの拡大や、食料品分野での物流網が進歩しているため。食品系はEC化率が4.16%と、まだまだオンライン市場の拡大が遅れている分野です。しかしライフスタイルの変化や技術革新が進み、ユーザーにとっての利便性が向上すれば今後大きなマーケットに成長する可能性を秘めています。
【サービス系分野】6兆1,477億円で前年比32.43%の大幅増
次に「サービス系」分野の市場規模は6兆1,477億円。これは前年比32.43%の大幅増でもっとも大きな伸び率となりました。コロナ禍により大きな打撃を受けたサービス系分野ですが、規制緩和やワクチンの普及など「脱コロナ」が進むにつれ、市場も活気を取り戻しています。本調査は2022年のデータですが、5類感染症へと移行した来年の調査ではさらなる回復傾向が期待されます。
詳細な分類からもコロナ禍からの“脱却”がうかがえ、旅行サービスは2兆3,518億円と前年に67.95%の増加。飲食サービスは6,601億円で33.69%増、チケット販売も5,581億円で73.89%の増加と軒並み高水準となっています。
【デジタル系分野】2兆5,974億円で市場規模は6.10%のマイナス
物販・サービス系の市場が成長した一方で、電子書籍やオンラインゲームなどが含まれる「デジタル系」分野は2兆5,974億円で、市場規模が前年比6.10%のマイナスとなりました。
とはいえ、市場規模が前年から減少したのはオンラインゲームのみ。これは外出自粛で市場が伸びしていたオンラインゲーム人気が、コロナ禍の規制緩和が影響して落ち着きを見せ始めたためです。今後はeスポーツをはじめとした新たな市場がどこまで拡大するかが、デジタル系分野の動向に影響を与えると予想されます。
BtoB‐ECの市場規模は420兆2,354億円
BtoB‐ECの市場規模は420兆2,354億円。これは前年比12.8%増で、EC 化率も前年から1.9 ポイント増の37.5%に達しています。
BtoB市場もコロナ禍の影響により2020年には330兆円台まで市場規模が落ち込みましたが、2021年からは再度回復傾向に転じています。今後懸念されるのが、円安の影響です。材料を海外から輸入しているBtoB企業は円安により材料費や輸送費の高騰が続いています。こうした影響は価格へ転嫁され、結果として市場の冷え込みを招きかねません。依然として歴史的な円安が続く状況で、BtoB市場にどのような影響が出るのか、注視する必要があります。
CtoC‐ECの市場規模は2兆3,630億円
最後にCtoC‐ECの市場規模は、2兆3,630億円で前年比6.8%の成長となりました。メルカリをはじめ新たな市場経済として成長が期待されるCtoC分野は、コロナ禍のおうち時間増加や断捨離ブームなども追い風となり拡大傾向が続いています。
今後も成長産業として期待が高まりますが、市場の拡大に合わせて顕在化してきたのがルールづくりの必要性です。フリマアプリではユーザー同士で取引を行うため、利用者の増加とともに偽ブランドの出品や転売目的でサービスを利用するユーザーが増えています。こうした商品を購入しトラブルに発展するケースも少なくなく、サービス側も不正行為を防止するルールづくりが求められています。
最近ではとくに、新発売の商品をいち早く店舗で大量に購入し、不当に高い金額で転売する行為が問題視されています。これはCtoCだけに限らず、BtoC市場にも影響を与える行為です。EC全体が公平で健全な方向へ進むよう、サービス会社が積極的にイニチアチブを取って環境を整備する必要があります。
最新データから見える2つのトレンド
さて、今回の調査では市場規模以外にもEC市場のトレンドを把握するデータがいくつも掲載されています。その中からとくに注目すべきトレンドを2つご紹介します。
スマホやタブレットの保有率が上昇傾向に
1つ目は情報通信機器の保有状況です。データを見ると1世帯当たりの情報通信機器の保有率は上位は、スマホが88.6%で1位。次いでパソコンが69.8%、固定電話が66.5%となっています。
スマホの保有率は2010年以降急激な上昇傾向に転じた一方で、パソコンや固定電話は15ポイント近く保有率が下がっています。スマホと同様に高い伸び率をみせているのがタブレットで保有率は39.4%。ECではモバイルファーストが以前から叫ばれていますが、今回のデータでもはっきりとユーザーがスマホ・タブレット端末への置き換わりが進んでいると分かります。
EC事業者はこうした状況をしっかり加味し、モバイル端末向けのデザインやコンテンツの製作、スマホユーザーをターゲットとしてSNS運用などにしっかり注力する必要があります。
リアル回帰の流れが強まっている
もう1つは、コロナ禍による自粛ムードや巣ごもり消費が落ち着き、リアル回帰の流れが強まっている点です。BtoC-ECの市場規模に関する考察でも触れましたが、コロナ禍により落ち込んでいた旅行や飲食といった業界が勢いを取り戻しつつあります。一方でオンラインゲームは前年から市場規模が縮小し、あらためて“アフターコロナ”が加速しています。
こうした状況への対策としてEC事業者も新たな打ち手を探る必要があります。たとえばポップアップストアでの販売やオフラインイベントの開催によるファンの獲得はその一手です。また、リアルでの打ち手が難しい事業者であれば、オンラインでのライブイベントを開催しユーザーのエンゲージメントを高める策は有効です。
コロナ禍ではEC事業者にアドバンテージが生まれる状況が続きましたが、今後はコロナ前のように実店舗との奪い合いが再燃します。これまで獲得してきたユーザーを離さない、あるいは新たなユーザーを獲得するための一手を積極的に打っていきましょう。
まとめ
今回は2022年のEC市場規模について、最新の調査データを元に解説しました。
コロナ禍による市場の落ち込みから回復傾向が見られたEC業界。とくにサービス系分野は大きな伸びを見せています。一方で、市場規模は成長軌道にあるものの、依然に比べて成長は鈍化傾向にあります。今後EC事業者はオンラインだけの戦略だけでなく、オフラインのイベントや集客にも注力しつつ、ブランドの浸透やファンの獲得を目指していく必要がありそうです。