D2Cブランドの今後は?実店舗や卸売の増加に見える未来とは

EcWork編集部

D2Cブランドの今後は?実店舗や卸売の増加に見える未来とは

EcWork編集部

ここ数年のEC市場において大きなけん引役を担ってきたビジネスモデル・D2C。

Shopifyをはじめとしたデジタルプラットフォームの進化も躍進を後押しし、日本国内でもすっかりお馴染みの存在となりました。

一方でコロナパンデミックが終焉に近づくにつれ、D2Cブランドの動向にも変化が見られています。とくに注目したいのが実店舗のオープンや卸売への進出です。

そこで今回は今後のD2Cのビジネスモデルについて考察します。国内やアメリカの動きを参考に、D2Cの未来を予想してみましょう。

国内のD2Cブランドが相次いで実店舗のオープンや卸売に進出している

D2Cといえば、ECを使った直販型のビジネスモデルが特徴です。自社で製造した商品を直接自社ECから販売し、利益率のアップやブランドイメージの向上につなげます。

こうしたビジネスモデルはスタートアップや小規模事業者にとってメリットが多く、大手企業のように潤沢な予算や卸売関連のノウハウを持っていなくても、自社で直接ユーザーとつながり事業を拡大できます。

しかし近年ECでの販売にこだわらず、実店舗のオープンや小売店への卸売に注力する動きが増えています。

ユナイテッドアローズのD2Cブランド「CITEN」は、2023年前半に実店舗を3店オープンすると発表。また、三井物産が展開する食品系D2C「Cycle.me(サイクルミー)」は、都内の大手コンビニチェーンでの販売をスタート。おなじく食品系D2Cでは大きな成長を続ける「BASE FOOD」も小売店での卸売に力を入れています。

海外でも直営店のオープンや卸売への進出は続いており、D2Cフットウェアブランドのグレイツ(Greats)やスキンケアブランドのフューチャーワイズ(Futurewise)が卸売市場への進出を発表するなど、市場の動きに変化がみられます。

コロナ禍のECブームが終焉しリアルへの回帰が進む

背景にあるのが、コロナ禍のECブーム終焉です。

パンデミックによる行動制限やロックダウンに見舞われたコロナ禍は、オンラインで商品を購入できるEC業界にとって、大きく売上を伸ばす“ECブーム”の時期でもありました。

D2Cブランドもこうした恩恵を受け急成長を続けましたが、ワクチンの普及や免疫獲得が進んだことでコロナ禍も終焉が見え始めています。これはECブームの終焉が迫っているのと同義で、人々が屋外に戻り、実店舗でショッピングを楽しむ機会も増加。“リアル”への回帰が進んでいます。

こうした動きを受けて、D2CブランドもECだけに留まらず新たな集客ポイントを生み出す必要に迫られました。その戦略の一つが実店舗のオープンや卸売への進出で、既存のD2Cブランドもオンライン販売にこだわらずリアルでの集客に力を入れ始めています。

ネット広告費の高騰やオンラインでの集客力が鈍ってきたのも理由

また、ここ数年のネット広告費の高騰もD2Cブランドの方針転換を促した理由の1つです。

電通が発表した調によると、2022年の国内ネット広告費の総額は3兆912億円(前年比114.3%)。2兆円を超えた2019年からわずか3年で約1兆円が増加しました。企業にとってはネット広告を配信するコストが割高に。さらに膨大な広告がネット上に散乱してしまい、以前に比べ費用対効果が下がってしまいました。

加えて、これまで地道にオンラインでの集客を続けてきたD2Cブランドほど、新規顧客の母数が減少しています。集客力の鈍化を補うための新たな集客経路として、実店舗のオープンや小売店での卸売販売が注目されるのは自然な流れといえます。

リアルでの販路拡大を続けながらブランドイメージをどう維持するかが鍵

では、リアルでの販路拡大を続けるD2Cブランドは、今後どのような部分が焦点となってくるのでしょうか。

最大のポイントは「これまで築いてきたブランドイメージを、どう維持していくか」ということ。D2Cは自社直販型とデジタル技術の組み合わせにより、利益率や生産効率を高める点が注目されていますが、それ以上に重要なのが世界観の構築です。

ブランドのストーリーやイメージを意味する世界観は、モノが売れない時代にD2Cが成功を収めた大きな理由となってきました。商品の機能や性能だけでなく、共感できるストーリーやエピソードがユーザーの心を掴み、ファン化を促します。ECやオウンドメディア、SNSといったツールで直接ブランドイメージをコントロールし、ファン化につなげられるのも大きな強みです。

たとえば、小売店舗での卸売は集客やブランド認知には大きなメリットがあるものの、これまでのようにブランドイメージをコントロールしづらくなる恐れがあります。自社のブランドを販売する店舗に対してのイメージ共有や、信頼のおける店舗のみへの展開など、世界観を維持するためのさじ加減が成長への鍵を握ります。

まとめ

今回は実店舗のオープンや小売店舗への卸売が増えているD2Cブランドの今後について考察しました。

コロナ禍の終焉が近づき、ECブームも一時の勢いを失いはじめています。またネット広告費の高騰や膨大な数の広告が掲載されるため、費用対効果が下がっている点も集客力の鈍化につながっています。

こうした中でD2Cブランドはリアル(実店舗や屋外イベント)に回帰するユーザーの獲得に注目。実店舗のオープンや小売店舗への進出を続けています。D2Cがリアルでの販路拡大を続ければ、D2Cの市場規模を押し上げる可能性も秘めています。

アメリカに比べD2Cの成長速度が緩やかな日本ですが、実店舗や卸売の増加は成長を加速させる起爆剤となれるのか、今後の動向に注目が集まります。