2023年10月1日から「ステマ規制」がスタート。内容や具体例を解説
2023.04.12広告であるにも関わらず、あたかも一般ユーザーが投稿した口コミやSNSを装って商品を宣伝する「ステルスマーケティング」。いわゆるステマと呼ばれる手法に対して消費者庁は、2023年10月1日から景品表示法で禁じる「不当表示」に指定することを発表しました。
今回の規制はWeb上で積極的な広告運用を実施するEC事業者にとっても、無関係ではなく、運用基準をきちんと確認しておく必要があります。
そこで本記事では、ステマ規制の概要を具体例をまじえながら解説します。
※本記事では今回の指定内容を分かりやすく「ステマ規制」と表記しています。
※また本記事では消費者庁より発表された「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」のガイドラインを元に記事を解説しています。
目次
2023年10月からステマが景品表示法の「不当表示」に追加へ
2023年3月28日、消費庁は広告であるにも関わらず、あたかも一般ユーザーが投稿した口コミやSNSを装って商品を宣伝する「ステルスマーケティング(以下ステマ)」を景品表示法の「不当表示」に追加する旨を発表しました。
不当表示とは、
商品・サービスの品質や価格について、実際よりも著しく優良又は有利であると見せかける表示が行われる
消費者庁表示規制の概要
ことで、消費者の適切な商品選択を阻害するとして禁止されています。今回のステマ規制もこの不当表示に該当するとして、新たに追加が決定しました。
ステマは消費者の自主的かつ合理的な購入を阻害してしまう
ステマとは、事業者がインフルエンサーなどに金銭や商品を提供し、その対価として自社を評価する口コミや投稿を書き込んでもらう手法です。
消費者庁は今回の規制に対して、「ステマは消費者の自主的かつ合理的な購入を阻害する」とガイドラインで述べています。たとえば、消費者が事前に広告であると理解して記事や広告に触れれば、「誇張や誇大な表記があるかもしれない…」という認識で商品を購入します。つまり、ある程度の広告やPRが含まれているという前提で、慎重ば商品選択が可能です。
しかしステマは広告である旨が開示されておらず、消費者は誇張や誇大の可能性を考慮せずに商品を購入する恐れがあります。これまでもステマを使った手法で消費者が虚偽の情報を鵜呑みにして商品を購入、訴訟や炎上騒動につながるなど度々問題となってきました。
違反には罰則が適用される。事業者と消費者のフェアな商取引を求める
今回の規制により事業者は、広告として商品の宣伝を依頼する場合、「広告」や「宣伝」・「PR」・「プロモーション」などの表示を必ず入れることが義務付けられます。
違反した場合は景品表示法による罰則が適用され、事業者に対して行政処分である措置命令を実施。これに従わない場合は2年以下の懲役や300万円以下の罰金などが科されます。なお今回の規制では、投稿した第三者は処分の対象には含まれていません(インフルエンサーや投稿したユーザー本人は処分されない)。
今回の規制はあくまでも事業者と消費者の商取引において、フェアな関係性を構築するのが目的です。きちんと広告である旨が掲載されていれば、広告そのものを禁止する訳ではありません。ただ、ユーザーがきちんと「広告である」と理解できる文言を表示し、フェアな関係性を築く努力が事業者には求められます。
ステマに該当してしまう具体例は?焦点となるのは第三者の自主性
さて今回の規制で大きな争点となるのが「第三者の自主性」です。
これは商品のレビューや高評価に対して、事業者が関与したのか、それとも投稿した第三者が自主的に発信したのかがポイントとなります。つまり、事業者からの指示で広告(ステマ)を行ったのかが争点となります。
この第三者の自主性に関して、消費者庁のガイドラインでは以下のような文言が掲載されています。
事業者が第三者をして行わせる表示について
ア 事業者が第三者をして行わせる表示が事業者の表示となるのは、事業者が第三
者の表示内容の決定に関与している場合であって、例えば、以下のような場合が考
えられる。(ア)事業者が第三者に対して当該第三者のSNS(ソーシャルネットワーキング
サービス)上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場
合。(イ) EC(電子商取引)サイトに出店する事業者が、いわゆるブローカー(レビ
ュー等をSNS等において募集する者)や自らの商品の購入者に依頼して、購
入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合。(ウ) 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイ
ターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合。(エ) 事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、
消費者庁ガイドライン
自らの競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した、
低い評価を表示させる場合。
では上記のガイドラインを参考に、どのような内容がステマに該当するのかいくつか事例を挙げていきましょう。
例1.対価を支払って自社の商品やサービスに関する高評価をSNSやレビューサイトに投稿してもら
まず、自社の商品やサービスに関する高評価を、対価を支払ってSNSやレビューサイトに投稿してもらう方法は事業者が指示をおこなっているため、ステマに該当します。
金銭や商品提供はもちろん、イベントへの招待も対価に含まれます。たとえば自社が開催するイベントに関してSNSで宣伝するステマ投稿を依頼。その対価として当日イベントに招待するといった行為も景品表示法に違反します。
また、事業者同士であっても、ステマ規制の対象となるケースがあるため、注意が必要です。たとえば、親会社から子会社に対して「親会社の商品に関して第三者を装って良いレビューを投稿してほしい」といった依頼があれば、ステマ規制の対象に含まれます。
投稿を促すことは問題ではありませんが、この場合は「親会社からの指示があった」「子会社として応援の意味を込めて投稿している」という意図が、消費者に伝わるよう投稿内容に留意しましょう。
例2.ECで商品購入者に対して指定した文言(内容)のレビューをお願いする
ECで商品を購入したユーザーに対して、レビュー投稿をお願いする手法もステマ規制の対象になる場合があります。
対象となるのは、事業者が購入者の投稿内容に対して直接的・間接的な指示をおこなっていた場合です。
たとえば「レビュー投稿者には次回割引クーポンを付与」といった施策そのものは違反にあたりません。しかし「レビューに『保湿効果抜群』という内容を書いてほしい」といった内容は、事業者からの指示があったため景品表示法に違反します。
SNSへの投稿も同様で、あくまでも第三者であるユーザーが自分の意思(=第三者の自主性)でレビューを投稿する形式になっているかが争点となります。事業者からの依頼や無償の商品提供があっても、第三者の意思で投稿された場合は違反にあたりません。
この線引きはデリケートで、グレーゾーンが多いと指摘されています。自社の施策で気になる箇所は、規制の施行までに消費者庁等に確認をしておくとよいでしょう。
例3:UGCで自社に有利な投稿のみを恣意的に抽出・改変して投稿する
ユーザーがSNSやウェブサービス上に投稿したUGC(ユーザー生成コンテンツ)を使う場合も注意が必要です。
たとえば自社に有利な投稿のみを恣意的に抽出して掲載する場合や、投稿内容を改変した場合は注意しましょう。こうしたUGCを活用する場合は、そのことが一般消費者に判別可能な方法で表示されていないと違反に該当します。
UGCはECでも広く活用されているだけに、掲載箇所に注意書きや抽出方法についての記載を加えるなど対策が必要でしょう。
例4.PRタグを大量のハッシュタグに埋もれさせる
PRや広告を表記する場合は、必ず消費者がきちんと認識できる箇所に表示しましょう。
たとえばSNSの投稿で大量のハッシュタグを付けて、PRタグが埋もれて見えづらいといった場合はステマ規制に違反する恐れがあります。また広告表示が不当に小さい・文字が薄いといった場合も規制の対象となるため注意してください。
【違反しないために】消費者に対して広告であることを明瞭にする
さて、ここまでステマ規制に関する概要と具体的な例をご紹介しました。
概要の部分でも述べましたが、今回の規制は広告そのものを制限・禁止するものではなく、あくまでも事業者と消費者がフェアな商取引をするための規制です。そのため、従来の手法であっても消費者に対して広告であることを明瞭にする(=ステマをしない)手法であれば問題はありません。
では、消費者に対して広告であることを明瞭にするには、どのようなポイントに注意する必要があるのでしょうか。
広告であると明瞭に判断される具体例
消費者庁が発表したガイドラインでは、下記のような場合は「広告であると明瞭に判断される」としています。
ア 「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示を行う場合。
注) ただし、これらの文言を使用していたとしても、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていると認められない場合もある。
イ 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合。
消費者庁ガイドライン
また下記のように明らかに広告であると理解できる場合は、上記のような告示の対象とならないと記載されています。
ア 放送におけるCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合。
消費者庁ガイドライン
イ 事業者の協力を得て制作される番組放送や映画等において当該事業者の名称等
をエンドロール等を通じて表示を行う場合。
ウ 新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合。
エ 商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物における表示を行う
場合。
オ 事業者自身のウェブサイト(例えば、特定の商品又は役務を特集するなど、期間
限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む。)における表示を行う場合。
カ 事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合。
キ 社会的な立場・職業等(例えば、観光大使等)から、一般消費者にとって事業者
の依頼を受けて当該事業者の表示を行うことが社会通念上明らかな者を通じて、
当該事業者が表示を行う場合。
こうした内容を見ると、
- 事業者であることを分かりやすく表示している
- 広告であることをきちんと表示している
この2つが大きなポイントとなります。やはり、消費者を欺くような商取引をせず、フェアな関係性で接する点が争点となりそうです。
まとめ│グレーゾーンに対しての対応を早い段階から確認しておく
今回は2023年10月1日からスタートする「ステマ規制」について解説しました。
消費者庁は2023年3月28日に、あたかも一般ユーザーが投稿した口コミやSNSを装って商品を宣伝する「ステルスマーケティング(以下ステマ)」を景品表示法の「不当表示」に追加すると発表しました。10月以降は、一般の消費者に対して広告であるとはっきり明記する義務が発生し、違反した場合は行政処分の対象となります。
一方で本規制は表現の自由や、事業者の自由な商法活動を阻害しないためにグレーゾーンが残っていると指摘されています。たしかに、「投稿者の自由意思」をどのように証明するのか、「広告であると明瞭に記載している」とどこで線引きするかなど、曖昧の箇所も多い印象です。
自社の施策や取り組みでグレーゾーンにあたり判断が難しいなら、早い段階で関係各所に確認をしておくのが大切です。対応が後手に回り、消費者との信頼関係が崩れるような事態にならないよう準備しておきましょう。
また消費者庁が発表したガイドラインを、一度しっかり読み込んで理解を深めておきましょう。